取材は、「今思えば」から面白くなる

導入事例の取材をしていて、いいキーワードが取れたな、と思うことがあります。そういう取材は、原稿にするときも書きやすい。この記事では何を伝えようか、という軸が見えているからです。

質問を重ねているうちに、相手が「今思えば、これが一番の効果だった」と話してくれることがあります。導入してからの変化を振り返って、ご本人も、その大きさに気づくんですね。

私は、こういう言葉が取れると、いい記事になりそうだと感じます。

取材相手が導入後の変化を振り返りながら話す場面を描いたイラスト

一番の効果は、社内の考え方が変わったこと

ある企業で、ワークフローシステムの導入について取材したときのことです。

導入の目的は、業務効率化やペーパーレスでした。その効果はきちんと出ていて、取材でも、まずはそうした話を聞いていました。

その後の変化についても質問していくうちに、経営陣や社内の考え方が変わった、という話になりました。長年続けてきた無駄のある商習慣から抜け出して、これまでの仕事の進め方を見直せるようになった。それが、その後のDXにもつながっていたそうです。

相手の方は、今振り返ると、経営陣や社内の考え方が変わったことが一番の効果だった、と話してくれました。

効率化やペーパーレスを目的に始めた取り組みが、次の変化を進めるきっかけにもなっていたわけです。導入時の目標に対して、どれくらい成果が出たか。その確認だけで取材を終えていたら、聞けなかった話かもしれません。

話して初めて、気づくこともある

導入の目的と、その効果。事例記事では必ず聞きたいことですが、使い始めてから起きる変化が、最初に想定した範囲に収まるとは限りません。

導入時には気にしていなかったことが、後になって大きな意味を持つ場合もあります。ただ、日々の仕事をしていると、以前と今をじっくり比べたり、何が変化のきっかけだったのかを考えたりする機会は、あまりないのかもしれません。

取材では、以前はどうだったのか、導入するときに何があったのか、使い始めてからどうなったのかを聞いていきます。相手も、思い出しながら説明してくれるので、そこからまた聞きたいことが出てきます。

そうして話が進むうちに、ご本人の中でも、いくつかの出来事がつながることがあります。目の前の業務を改善しようと始めたことが、その後の会社にどんな影響を与えていたのか。振り返ってみて、初めて分かることもあるんですね。

ワークフローの取材で出てきた言葉も、そんなやり取りの中にありました。相手の話を聞いているこちらも、導入の効果を少し違う角度から捉えられるようになる。私は、取材にはこういう面白さがあると思っています。

「考え方が変わった」を、もう少し詳しく

「考え方が変わった」という話が出てきたら、そこで分かったつもりにならず、もう少し聞いておきたいところです。

例えば、「どんなときに、考え方が変わったと感じましたか」と聞いてみる。経営陣の判断が変わったのか、現場で新しい提案が出るようになったのか。具体的な話が聞ければ、その方が何を大きな変化だと感じているのか、こちらも理解できます。

原稿を書くときにも、ここが効いてきます。「社内の意識が変わりました」というコメントだけでは、読者は何が起きたのか想像しにくいですから。どんな判断や行動に表れたのかまで伝えられると、その言葉にも納得してもらいやすくなります。

もっとも、こちらから「意識が変わったことが、一番の効果ですよね」と話を持っていくのは違います。相手には相手の実感があるので、聞き手の考えた筋書きに収めてしまわないようにしたい。

また、社内の変化には、システムの導入以外の取り組みも関わっているかもしれません。何がきっかけになって、どう変わっていったのか。いい言葉が出てきたときほど、その前後の話を聞いておくと、記事でも無理なく説明できます。

その言葉が、記事の軸になる

私がいうキーワードは、短い単語である必要はありません。今回なら、経営陣や社内の考え方が変わったことが、今思えば一番の効果だった、という言葉です。

これが取れると、聞いてきた話の中で、何を詳しく伝えたいかが見えてきます。効率化やペーパーレスの成果に加えて、長年の仕事の習慣を見直したことや、その後の変化も書きたい。その会社にとっての導入の意味を、記事の中でたどれるように組み立てていきます。

もちろん、その言葉を見出しに置くだけでは足りません。そう言えるのはなぜか、取材で聞いた経緯や出来事を添えていく。書いてみて説明が足りないと分かったら、追加で確認することも必要です。

同じような仕事の習慣に悩んでいる読者なら、「うちにもこういうところがある」と感じるかもしれません。処理が速くなった、紙が減ったという成果に加えて、社内がどう変わったかも、自分たちの導入を考える材料になると思います。

取材のたびに、こんな言葉が取れるわけではありません。でも、相手が振り返りながら「今思えば」と話し始めたら、もう少し聞いてみたい。ご本人が今になって感じている価値の中に、その記事でいちばん伝えたいことが見つかるかもしれません。

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kageyama