情報設計と感情設計|読まれる事例記事に必要な二つの視点

事例記事では、情報を揃えるだけでは少し足りません。数字や機能を比較しながら、読者は「自分たちの課題にも応えられそうか」「この会社なら状況を分かってくれそうか」も確かめています。判断に必要な情報と、読み手の不安や疑問に応える言葉。その両方があると、記事の納得感は変わります。

情報設計と感情設計|読まれる事例記事に必要な二つの視点

この記事はいつもと少し違います。事例制作ディレクターの影山が、コンテンツについて考えていることを書きました。

コンテンツには、二つの設計がある

よく調査されていて、数字も揃っていて、正確なのに、読まれない記事があります。

必要な情報が見つけにくいのかもしれません。話の順番が分かりにくいのかもしれません。あるいは、内容は理解できても、自分に関係のある話だと感じられないのかもしれません。

情報を揃えることと、その情報が読み手に届くことには、隔たりがあります。

たとえば、導入の効果は分かっても、現場が受け入れられるか不安で、検討が進まない。そんな読み手にとっては、成果の数字に加えて、担当者が何に迷い、どう乗り越えたかが、先を考える手がかりになります。

もちろん、共感できれば十分というわけでもありません。担当者の話に心を動かされても、導入の条件や効果が分からなければ、自社に合うかは判断できない。

私は、こうした記事を作るとき、二つの設計を意識しています。

コンテンツには、二つの設計がある

情報設計は、読み手の理解と判断を支える設計です。どんな事実を選び、どの順番で届けるか。背景と結果のつながりや、自社に当てはまる条件を読み取れるように整理します。

感情設計では、読み手が抱く不安や期待、人との距離感に目を向けます。担当者の迷いや、ふともらした一言、仕事の様子が伝わる場面を、どこでどう届けるか。感動的に演出するというより、実際にあった言葉や場面を、気持ちが伝わる形で残すことです。

この二つは、きれいに分けられるものではありません。選定時に迷った理由は、人の気持ちを伝えると同時に、同じ条件で検討する読者の判断材料にもなります。

情報から関心を持つこともあれば、誰かの一言に引かれて読み始めることもある。どちらを先に置くかも、伝える内容と読み手によって変わります。

この二つについて、自分の仕事を通じて考えてきたことを書きます。

感情設計の例:福島孝徳先生のエッセイ

福島孝徳先生について、私が書いたエッセイがあります。先生は脳神経外科医で、「神の手」と呼ばれた方です。2024年に81歳で亡くなられました。私は一スタッフとして十数年、先生のお仕事に関わってきました。

福島先生のような方を書くとき、難しいのは、すでに読み手の中に強いイメージがあることです。

「神の手」という言葉を聞いた瞬間、人はすでに何かを感じています。畏敬、距離感、あるいは感動。その感情は、メディアが積み上げてきたものです。そこに乗っかって書いても、読み手はさらに遠ざかるだけです。

だから私は、その距離を縮めたいと思いました。

みんなが知っている凄さの裏には、地道な努力と、人を救うために払ってきた犠牲があること。思いのほか人に気を遣う方で、褒められると素直に喜ぶ人でもあったこと。笑顔が素敵だったこと。

「神の手」という言葉が遠ざけてしまった、人間・福島孝徳の本来の姿を見せて、読者の心の距離を縮めたかった。自分の延長線上に福島先生がいると感じてほしかった。

よかったら、一本読んでみてください。

神の手と、やさしい手 ― 福島孝徳先生のこと

このエッセイでは、手術の話はほとんど出てきません。出てくるのは、乾いていく寿司を気遣って頬張る姿や、年下の人間にすぐ「すまん」と言える潔さ。実績の説明だけでは伝わりにくい人柄を、こうした場面から感じてもらいたいと思いました。私が感情設計と呼んでいるのは、こうした場面の選び方や届け方です。まぁ実のところ、私が好きな先生像をそのまま書いただけでもあります。

あわせて、こちらも書いています。
「神の手」という言葉だけでは見えにくい、福島先生の意外な一面にも触れてもらえたらと思います。

情報設計の例:大塚商会のインフォグラフィック

大塚商会の会員向けメディア「図解で読みとく 中小企業ビジネスナビ」というシリーズを、毎月企画・編集しています。中小企業の経営者に向けたインフォグラフィック記事で、株式会社アークタンジェント名義で公開されている記事について、ここでは制作意図も含めて少し紹介します。

使えるのは、省庁の統計と白書だけ。公的データは誰でもアクセスできますから、同じ白書を開けば同じ数字が並んでいます。そこから、経営者にとって意味のあるストーリーをどう組み立てるかが、毎月問われます。

テーマは毎月変わります。地政学リスク、宇宙産業、育児休業、資金繰り。テーマだけ聞くと「中小企業に関係があるのか」と思うものも少なくありません。その距離を、データの選び方と並べ方で埋める。それがこのシリーズの情報設計です。

たとえば、こちらの記事です。(大塚商会の会員向けメディアのため、閲覧には無料会員登録が必要です。)

地政学リスクに備える|図解で読みとく 中小企業ビジネスナビ

この号のテーマは地政学リスク。中小企業の経営者の日常からはやや遠いテーマです。最初のインフォグラフィックでは、国際情勢の変化、経済・物流の連鎖、日本企業への影響、と三段階で降ろしていき、最後に「85%の企業が重要と回答」という調査データで裏付けています。

遠く見えるテーマが、自社の経営とどうつながっているのか。その関係をたどれるように、元の白書から使えるデータを探し、説明の筋道を組み立てていきます。考えた筋道をデータで裏付けられなければ、構成から見直す。元のデータは膨大ですが、最終的に残るのはほんの一部です。

データを探し、ストーリーを組み、つながらなければ捨ててやり直す。品質を上げるためには、華やかな方法は何もなくて、ひたすらこの繰り返しです。

同じシリーズでは、宇宙産業、育児休業、女性管理職登用などのテーマも扱っています。いずれも、遠く見えるテーマを中小企業の経営課題として捉え直すことを意識して構成しています。

事例記事には、二つの設計が同時に必要になる

情報設計と感情設計

事例記事の制作は、この二つが同時に求められる仕事です。

取材では、導入の背景、課題、選定理由、効果など、読み手の判断に必要な事実を確かめます。同時に、担当者がどこで迷い、何を心配し、導入後にどう感じたのかにも耳を傾けます。

これらは別々の素材とは限りません。迷った理由の中に、選定の決め手を理解するための情報があることもあります。担当者の一言が、数字だけでは見えない変化を伝えてくれることもある。

だから事例制作では、聞いたことをそのまま並べるだけでは足りません。何を残し、何を捨て、どの順番で届けるか。その判断に、情報設計と感情設計の両方が必要になります。

福島先生のエッセイは、十数年そばで見てきた姿が土台になっています。大塚商会のインフォグラフィックでは、データを読み込み、経営者にとっての意味を探しています。関わり方は違いますが、どちらも、対象をよく知ろうとするところから始まっています。

事例記事も同じです。取材の相手をよく見て、よく聞いて、その会社にしかないストーリーを見つける。そこで見つけた言葉や場面を、背景や条件とあわせて届けたいと思っています。

「これは、自社にも関係がある話かもしれない」「うちでも、同じように変われるかもしれない」。読み手がそう考えたときに、自社との共通点や違いを確かめられる記事にしたい。

記事を読んですぐに問い合わせるかどうかは、予算や時期、社内の事情にもよります。それでも、次の検討へ進むための材料を届けることはできます。

「一度、相談してみよう」。

そう思ってもらえる記事を作ることが、私たちの仕事です。

導入事例制作のご相談

導入事例制作サービス

導入事例の制作実績

投稿者プロフィール

kageyama