はじめての導入事例づくり─ 押さえておきたい構成と質問案(質問案PDF付き)

導入事例づくりで迷わないために
BtoBマーケティングにおいて、導入事例は欠かせないコンテンツです。
サービスや製品の価値を、企業側の説明ではなく「顧客の言葉」で伝えられる数少ない手段であり、検討段階にある企業にとっては、意思決定を後押しする重要な判断材料になります。
一方で、導入事例の制作を初めて担当すると、「どんな構成でまとめればいいのか」「取材でどこまで聞けばよいのか」といった点で立ち止まりがちです。そのまま手探りで進めてしまい、話が整理しきれなかったり、公開したものの営業やマーケティングで使いづらい事例になってしまうことも少なくありません。
この記事では、導入事例づくりの中でも最初につまずきやすい「構成の考え方」に焦点を当て、実務で迷わず進めるための整理の仕方を紹介します。
あわせて、各パートで何を聞けばよいかが分かる「質問案PDF」も用意しました。この質問案は、私自身がこれまで現場で導入事例の取材・制作を行う中で、実際に使ってきた質問項目をもとに整理したものです。初めて導入事例を担当する場合でも、そのまま取材に使えることを前提に構成しています。
これだけ押さえればOK。導入事例の基本構成
導入事例づくりで最初に考えるべきなのは、「どう書くか」ではなく 「どんな順番で整理するか」です。
構成が固まらないままインタビューや執筆を始めてしまうと、話が行き来したり、重要な情報が抜け落ちたりしやすくなります。後から編集で整えようとしても、限界があります。
BtoB向けの導入事例は、「導入前 → 導入 → 導入後」という時系列で整理するのが基本です。この流れに沿って構成を決めておくことで、読み手は状況の変化を自然に追うことができます。
私が実務でよく使っている基本構成は、次の6つです。(必要に応じて、補足パートを追加します)
- 企業概要
- 導入前の課題
- 導入の背景・決め手
- 導入のプロセス
- 導入後の効果
- 今後の展望
この順番を崩さずに整理するだけで、事例はぐっと読みやすくなります。また、この構成に対応した質問項目を事前に用意しておくことで、インタビューも迷わず進められます。 以降では、それぞれの項目について、「何を書くか」「どこまで書けば十分か」という視点で見ていきます。
①企業概要|事例を理解するための前提情報
企業概要は、導入事例を読むための「前提条件」をそろえるパートです。ここでの目的は、企業を詳しく紹介することではありません。読み手が状況を正しく理解できる最低限の情報を渡すことが役割です。
書くべきなのは、主に次のような情報です。
- 業種・事業内容
- 企業規模(従業員数、拠点数など)
- 事例の文脈に関係する特徴(BtoB/BtoC、全国展開など)
逆に、沿革や理念、詳細な会社紹介まで書く必要はありません。導入事例の主役はあくまで「課題と変化」であり、企業概要はそれを理解するための補足情報にすぎないからです。
ここでありがちな失敗は、「企業紹介としてきれいにまとめよう」としすぎてしまうことです。情報量が多くなるほど、読み手は本題に入る前に疲れてしまいます。
目安としては、“この企業は、どんな立場でこのサービスを使っているのか”が分かれば十分です。それ以上の情報は、思い切って省いて問題ありません。
② 導入前の課題|なぜ検討が始まったのか
導入前の課題は、導入事例全体の「出発点」です。このパートが曖昧だと、その後の導入理由や効果もぼやけてしまいます。
ここで意識したいのは、単なる「困りごと」ではなく、業務上どのような支障が出ていたのかを整理することです。たとえば、
- 業務にどれくらいの工数や時間がかかっていたのか
- その状態が、成果や品質にどのような影響を与えていたのか
- なぜ従来のやり方では対応しきれなかったのか
といった点を具体的にします。
「作業が大変だった」「手間がかかっていた」という表現だけでは、読み手にとって状況が見えません。“どこが限界だったのか”を言語化することで、読み手は自社の状況と重ねて考えやすくなります。
また、課題は一つに絞る必要はありませんが、すべてを同じ重さで並べるのは避けたいところです。複数ある場合は、「最も大きかった課題は何か」を整理しておくと、事例の軸がぶれません。
この段階で課題が明確になっていれば、以降の「導入の背景・決め手」「導入後の効果」も自然につながっていきます。
③ 導入の背景・決め手|判断の軸を整理する
導入の背景・決め手では、「なぜそのサービスを選んだのか」を整理します。ここで重要なのは、機能やスペックを詳しく説明することではありません。
このパートの役割は、当時の判断軸を読み手に共有することです。たとえば、
- サービスを知ったきっかけは何だったのか
- どのような観点で比較・検討していたのか
- 最終的に重視したポイントはどこだったのか
といった流れで整理します。
比較検討の話が出てきた場合は、すべてを詳しく書く必要はありません。「決め手になった要素」に絞って言語化するほうが、事例としては分かりやすくなります。
また、導入理由を一つにまとめる必要もありません。ただし、複数の理由がある場合でも、その中で最も大きかった判断要因は何だったのかを明確にしておくと、読み手にとって参考にしやすい事例になります。
このパートが整理されていると、「自社の場合は、どこを重視すべきか」を考える材料として、事例の価値が高まります。
④ 導入のプロセス|現場で起きたこと
導入のプロセスは、導入事例の中でも特に「現場感」が出るパートです。実際に導入を検討している読み手が、最も知りたい部分でもあります。
ここでは、「スムーズに進みました」という一言で済ませてしまわないことが重要です。多少の苦労や調整があったほうが、事例としてのリアリティは高まります。整理する観点としては、次のようなものがあります。
- 導入までの流れ(検討〜導入までの期間など)
- 社内で調整が必要だったポイント
- 想定外だった点や、途中で方針を見直した点
すべてを細かく書く必要はありませんが、「導入時に考えるべきポイント」が伝わる程度には具体化したいところです。
特に意識したいのは、事前に準備しておいてよかったことややっておいて正解だった工夫です。これらは、読み手がそのまま参考にできる情報になります。このプロセスが描けていると、導入後の効果にも自然な説得力が生まれます。
⑤ 導入後の効果|何がどう変わったか
導入後の効果は、導入事例を読む側が最も注目するパートです。ここでは「良かった」という感想だけで終わらせないことが重要です。
まず整理したいのは、導入前の課題が、どう変化したのかという点です。②で整理した課題と対応づけて書くことで、事例全体に一貫性が生まれます。
効果は、大きく分けて次の2種類があります。
- 数値で示せる効果(定量)
- 数値化しにくい変化(定性)
定量的な効果がある場合は、「工数が○%削減された」「作業時間が○時間短縮された」など、可能な範囲で具体的に示します。必ずしも正確な数値でなくても、変化の大きさが伝われば十分です。
一方で、定性的な効果も軽視できません。
- 業務の見通しが立てやすくなった
- 現場の負担感が減った
- 他部門との連携がスムーズになった
といった変化は、読み手が「自社でも起こりそうだ」と想像しやすいポイントです。効果を盛りすぎる必要はありません。現場で実感している変化を、淡々と整理するくらいが、
BtoBの導入事例としてはちょうどよいトーンになります。
⑥ 今後の展望|導入後の次の一手
今後の展望は、導入事例を「現在進行形の取り組み」として締めくくるパートです。ここでの目的は、将来の成果を誇張することではありません。
書くべきなのは、導入をきっかけに、どんな次の一手を考えているかという視点です。たとえば、
- 今後、活用範囲を広げていきたい領域
- 業務改善をさらに進めたいポイント
- 今回の導入で得た知見を、別の業務にどう活かすか
といった内容が挙げられます。
「まずは使いこなすところから始めたい」「段階的に活用を広げていく予定」といった表現でも問題ありません。無理に大きなビジョンを描く必要はありません。このパートがあることで、導入事例は単なる成功談ではなく、これからも改善が続くプロジェクトとして受け取られます。
読み手にとっても、「導入はゴールではなくスタート」という視点を持てる点で、参考価値の高い締めくくりになります。
[補足] 検討中の企業へのメッセージ|経験から伝えたいこと
最後に、同様の課題を持つ企業に向けて、取材対象者の言葉を紹介することがあります。これは必須項目ではありませんが、事例全体を「説明」から「経験談」に引き上げる役割を持つパートです。
このパートの目的は、導入を振り返った当事者の視点を補足することにあります。導入前から導入後までの流れを整理したうえで、「実際にやってみてどうだったか」「今だから言えること」を一言添えることで、事例全体に人の温度が加わります。
実際には、次のような内容が語られることがあります。
- 完璧な状態を目指すより、まずは構成を決めて進めたほうがよかった
- 最初に課題を整理しておいたことで、後の編集が楽になった
- 導入プロセスを正直に話したほうが、結果的に伝わりやすかった
長いコメントを載せる必要はありません。一言から二言程度でも十分です。他のパートが事実や変化を整理する役割を担っているのに対し、このパートは「同じ立場の企業に向けた補足的なメッセージ」として位置づけると、全体のバランスが取りやすくなります。
実務でそのまま使える「導入事例質問案フォーマット」
この記事で紹介した構成をもとに、各パートで「何を聞けばよいか」を整理した質問案フォーマット(PDF)を用意しました。この質問案フォーマットは、私自身がこれまで現場で導入事例の取材・制作を行う中で、実際に使ってきた質問項目をベースに整理・集約したものです。
一般的なテンプレートではなく、取材の流れや編集のしやすさを意識して構成しています。
- インタビュー前の準備に
- 初めて導入事例を担当する際のたたき台に
- 社内・外注先とのすり合わせ用資料として
そのまま使えることを前提にまとめています。
構成は理解できたものの、「実際に何を聞けばいいか」で迷う場合は、まずはこの質問案フォーマットをそのまま使って取材を進めてみてください。


導入事例質問案フォーマット
無料ダウンロード
現場で実際に使ってきた質問項目をもとに整理したフォーマットです。導入事例の取材で、何を聞けばよいか迷ったときのたたき台として使えます。
■ 構成と質問をセットで考える
導入事例づくりでは、文章表現や言い回しよりも、最初に構成を整理し、聞くべきポイントを明確にしておくことが重要です。構成が決まれば、取材で迷いにくくなり、話が脱線しにくくなり、編集や原稿整理もスムーズになります。
この記事で紹介した構成と質問案は、導入事例を「とりあえず作る」のではなく、「実際に使える形にする」ためのものです。
はじめて導入事例を担当する場合は、完璧を目指す前に、まず構成と質問を固めるところから始めてみてください。
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