事例記事で迷いやすい「文体」と「文章形式」―違いを整理し、読みやすく設計するための考え方

事例記事で迷いやすい「文体」と「文章形式」―違いを整理し、読みやすく設計するための考え方

事例記事で迷いやすい「文体」と「文章形式」の違い

事例記事を制作していると、「文体」と「文章形式」をどう選ぶべきか迷う場面があります。「ですます調」にすれば読みやすくなるのか、「Q&A形式」にすれば事例らしくなるのか──判断が経験や感覚に委ねられやすいポイントです。

どちらも文章の書き方に関わる要素であるため、同じレイヤーの決めごととして扱われがちですが、実際には役割が異なります。この違いが整理されないまま進むと、語尾は揃っているのに読みづらい、途中からインタビューなのか解説なのか分からなくなる、といった違和感につながります。

本記事では、「文体」と「文章形式」を切り分けて整理し、事例記事ではどのように使い分ければよいのかを見ていきます。

文体(語り口)は「誰の声で語るか」を決める

事例記事における文体は、文章の印象を左右します。ただし、その役割は「内容をどう組み立てるか」ではありません。誰の声で、どの距離感で語るかを決めるための選択です。

事例記事で使われる文体は、大きく分けて「ですます調」と「だ・である調」の二つです。どちらが優れているということはなく、読者層や媒体の性格、記事の用途に応じて選ぶものです。

「ですます調」は、読み手に寄り添いやすく、初見でも抵抗なく読み進められる文体です。マーケティング用途の事例や、幅広い読者に向けた記事と相性が良く、多くの企業サイトで採用されています。一方で、丁寧さゆえに、論点を鋭く切り出したい場面では穏やかに見えることがあります。

「だ・である調」は、情報を簡潔に整理し、論点を明確に伝えたい場合に向いています。数値や結果、理由を中心に構成する技術系・専門領域の記事では文章が引き締まりやすい反面、事例の温度感を伝えたい場面では距離を感じさせることもあります。

重要なのは、文体を雰囲気や慣習で決めないことです。事例記事における文体選びは、「誰に読んでもらいたいのか」「どの距離感で語りたいのか」を定める行為でもあります。

また、文体を選んだら、記事全体で統一する必要があります。本文だけでなく、見出しやリード、コメントの整え方まで同じ語り口に揃えることで、文章のリズムと温度感が安定します。

文体は、事例記事の「声」を決める要素です。この声を先に定めることで、次に扱う文章形式も、基準に沿って選びやすくなります。

文章形式は「どう理解させるか」を決める

文体が文章の「声」を決めるものだとすれば、文章形式は「情報をどう理解させるか」を決めるものです。同じ内容でも、どの形式で組み立てるかによって、読者が把握するポイントや判断のしやすさは大きく変わります。

文章形式は、語尾やトーンの問題ではありません。情報をどの順番で提示し、何を主軸として読ませるかという、構造の選択です。事例記事では、この構造の取り方によって、「考え方が伝わる事例」になるか、「出来事の紹介にとどまるか」に見えるかが分かれます。

事例記事で使われる文章形式には、いくつかの定番があります。それぞれに向き・不向きがあり、どの形式が正しいということはありません。重要なのは、「何を理解してほしい事例なのか」に対して、どの形式が最も適しているかを選ぶことです。

以下では、事例記事でよく使われる代表的な文章形式と、それぞれの特徴を整理します。

Q&A形式(インタビュー型)

質問と回答を軸に構成する形式です。導入の背景や現場での考え方を、担当者自身の言葉でそのまま伝えやすい点が特徴です。意思決定の理由や判断の過程を、プロセスとして見せたい場合に向いています。

一方で、質問を増やしすぎると論点が分散しやすく、「何を伝えたい事例なのか」が見えにくくなることがあります。Q&A形式を選ぶ場合は、「すべてを聞く」のではなく、「何を理解してほしいか」を先に定め、そのために必要な質問だけを設計することが重要です。

Q&A形式(インタビュー型) 例文 ⇒誰が何を考え、どう判断したかがそのまま読める

Q:今回のシステムを導入した理由を教えてください

A:一番の理由は、部門ごとに管理方法がバラバラで、全体像が把握できなくなっていたことです。個別の確認作業に時間がかかるだけでなく、「いま何が起きているのか」を正確に共有できていませんでした。現場からも「このままでは判断が遅れる」という声が上がっており、属人化を解消し、情報を一元的に見られる仕組みが必要だと感じていました。

地の文中心+コメント型

全体を地の文で整理し、要所で担当者のコメントを挟む形式です。情報の流れを編集側でコントロールしやすく、BtoBの事例記事ではもっとも安定感のある構成と言えます。

コメントは単なる補足ではなく、記事の中で最も伝えたい判断や変化を、当事者の言葉として示すために使います。そのため、コメントの数を増やすことよりも、「どこで使うか」を意識して配置することが重要です。地の文は、コメントの前後関係を整理し、読み手が意図を取り違えないよう支える役割に徹します。

地の文中心+コメント活用型 例文 ⇒構造は地の文、核心はコメントで押さえる

業務管理の属人化が進み、全体の状況を把握しづらくなっていたことが、今回の導入検討のきっかけだった。特に、部門間で情報が分断されていた点が大きな課題となっていた。

「このままでは、判断に時間がかかりすぎると感じていました。部門ごとに確認しなければならず、状況を把握するだけで半日以上かかることも珍しくなかったですね。結果として、分かっていても決断を先送りしてしまう場面が増えていました」と担当者は振り返る。

導入後は、情報が一元化されたことで、確認や意思決定のスピードが大きく改善した。以前は数日を要していた判断が、現在では当日中に行えるケースも増えている

モノローグ型(語り下ろし型)

担当者の語りだけで構成する形式です。質問や編集者の地の文を前面に出さず、意思決定の流れや考え方を、一人称の語りとして連続的に伝えます。

判断の背景や思考の変化を自然な流れで読ませたい場合や、人物の考え方そのものを前に出したい事例に向いています。一方で、事実関係や数値の整理が不十分だと、体験談や作文のように見えてしまうことがあります。どこで情報の正確さを担保するかを意識して編集する必要があります。

モノローグ型(語り下ろし型) 例文 ⇒担当者の思考や判断の流れを、一人称の語りで追える

業務管理が部門ごとに分断されていて、全体の状況を把握しづらくなっていました。各部門に確認しなければならず、状況をつかむだけで半日以上かかることも珍しくありませんでした。

このままでは判断が遅れ続けると感じていました。問題点は分かっていても、確認に時間がかかるせいで、どうしても決断を先送りしてしまう。結果として、対応が後手に回る場面が増えていたと思います。

導入後は、情報を一元的に確認できるようになりました。全体の状況がすぐに見えるようになり、判断に迷う時間が大きく減っています。以前は数日かかっていた判断も、いまでは当日中に行えるケースが増えました。

複数話者型(対談・掛け合い)

複数の立場の担当者が登場し、それぞれの視点から導入の背景や判断を語る形式です。現場担当、責任者、情シスなど、役割の異なる話者を組み合わせることで、判断の過程や合意形成を立体的に伝えられます。

一方で、話者が増えるほど論点は散りやすくなります。誰に何を語らせるのか、どの立場の視点が主軸なのかを事前に整理しておかないと、読み手が話の軸を見失いやすくなります。

複数話者型(対談・掛け合い) 例文 ⇒異なる立場の視点から、判断の背景を立体的に理解できる

現場担当A氏
部門ごとに管理方法が違っていて、全体の状況を把握するのが本当に大変でした。確認作業に時間がかかり、「分かっているのに決められない」場面が増えていたと思います。

責任者B氏
その状況は把握していましたが、単にツールを入れれば解決する話ではないと感じていました。現場の運用に無理が出ないか、定着するかどうかを重視して検討しました。

現場担当C氏
結果的に、情報を一元的に見られるようになったことで、判断のスピードは大きく変わりました。以前は数日かかっていた判断が、当日中にできるケースも増えています。

どの形式を選ぶ場合でも、重要なのは事前の設計です。誰の声を軸にするのか、編集側はどこまで関与するのか。この二点を曖昧にしたまま進めると、どの形式を使っても論点が散りやすくなります。

文章形式は、「見せ方」の選択ではなく、「理解させ方」の選択です。文体で語りの声と距離感を定めたうえで、事例の目的に最も合う形式を選ぶことで、読み手にとって把握しやすい構成になります。

文体と文章形式は「順番」と「組み合わせ」で考える

文体と文章形式は、どちらか一方だけを決めればよいものではありません。事例記事の読みやすさは、この二つをどの順番で決め、どう組み合わせるかで大きく変わります。ただし、両方を同時に考え始めると判断軸が増えすぎ、「ですます調だからQ&A」といった短絡的な選び方に流れがちです。迷いを減らすには、判断の順番を固定するのが有効です。

まず、文体で「誰の声で語るか」「読者とどの距離感で語るか」を決める。次に、その声を使って「何を理解させたいのか」を定め、文章形式を選びます。

重要なのは、どの形式が優れているかではありません。その事例で何を理解してもらう必要があるのかに対して、最も無理のない組み合わせを選ぶことです。この順序と組み合わせを意識するだけで、事例記事は整理され、読み終えたあとに要点が残りやすくなります。

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kageyama